今から17年前に地元の高校を卒業して仙台にある専門学校へ 入学した時の話である。
当時、世間を知らない私は
地元を離れて生活するのがあまり好きではなかった。
初めて親元を離れ、よその町で生活するという事に不安を感じていたのである。
人づきあいが苦手な私が下宿先で上手く生活していけるのであろうかと
不安もあったが、
同年代の下宿人が私を含め5人、先輩が3人、
そして下宿先のおばさんとで計9人の共同生活が始まった。
下宿先は仙台市O ×丁目、
近くには踏切、はんだ屋、駐車場などがあった。
さて、同年代の中に『A山』という、
少し神経障害と思われる男がいたのだが、今回は彼が主役である。
症状は発作的に両腕を外側に開きながら大きな声で
「ドゥーーー!」と叫ぶのだが、初めて見た時は驚いた。
しかし、日常会話を交わすうちに次第に慣れていった。
一緒に風呂にも行くし、外食もするし買い物もする。
なんら気にする所はなかったのだ、あの夜までは・・・
母屋の玄関をくぐり、向って右側の二階が私の部屋。
向って左側の二階が『A山』の部屋。(隣に『Y山』の部屋がある。)
ある夜、『Y山』と『Y橋』が私の部屋に来て三人で話をしていたが、
時計の針は夜12時を過ぎようとしていたので、
また明日という事になり、各々部屋に帰って行った。
(ちみにY橋は離れに部屋がある。)
私も部屋の扉(薄い襖みたいなの)に、
鍵(上からカタンと落しネジを締める)を掛け、電気を消して床に就いた。
寝ながら今日の会話を思い出していた。
私はさほど気にならないが、
さっきの二人は『A山』の症状が気になって気味が悪い、と話していたのだ。
むしろ悪口に近い内容で話し込んでいた。
考えているうちに眠くなり、いつの間にか眠っていた。
「静かだ・・・」
んっ?
誰かが一階の廊下を歩いている。ギシギシと歩く音がする。
「おばさんがトイレに起きたのだろう。。。」
そう思っていたら、ミシッ、ミシッ、と階段の音がする。
「?? 階段を上って来るぞ! 誰だろう? 寝たふりしよっと。」
階段を13段上りきった。
すると「ギキィ〜ッ」と扉が開いた。
「なんだよ、寝てんだから入って来るなよ、電気消えてんだろ!」
と思いながら起き上ろうとしたが・・・
体が動かない?? 何? 金縛り?
過去に霊体験などなかったものだから、頭が???だった。
目が開かず、体が動かず、声が出ない! 夢じゃないの??
部屋に入ってきた何かは私の足元の方へ歩み寄ってきた。
畳を踏む音がミシッ、ミシッ、と小さく耳に聞こえる。
この時点で気配の主が『A山』だと私の頭の中で断定された。
不思議な事に気配は彼の全て(体の大きさや息遣い)を
私の脳に送りつけたようだ。
そのまま彼は布団をまたいで私の腰の上へ座り、
両手を私の首に持ってきてググッと締め上げたのだ!
『苦しい、苦しい、死ぬ、死ぬぅぅ!!!』
もがきたくても動けない。
頭の中で暴れた自分を想像していたら、
何かがフッと切れたように、急に体が動いた。
そして同時に言葉にならない言葉を叫んでいた。
苦しいながらも部屋に『A山』が居ないことに気づいた私は部屋の鍵を外し、
大至急『A山』の部屋へ怒鳴りこみに行った。
すると先程まで一緒に話をしていた『Y山』が
部屋から出てきて
「どうした?」
と聞いてきた。
事情を説明すると『Y山』は
「A山なら、ずっと寝てたみたいだよ。」
と言った。
首を傾げながら私は部屋に戻ったが納得いかない。
一人怒りながら部屋の鍵を締め直し、
『・・・鍵?・・・締め直し?・・・』
『そうだよ!『A山』はどうやって部屋に入って出て行ったんだよ!!!』
私は確かに自分で部屋の鍵を締めて寝た。
そして鍵を外し『A山』の部屋に行った。
考えたら急に怖くなり、その夜は布団をかぶって寝たのだが・・・
眠りが浅く早起きになった。
台所で朝食の準備をしているおばさんに朝の挨拶をする。
同時に『Y山』が食事に来た。
おばさんとY山が私の首を見て目を丸くした。
「どうしたの、その首!」
二人に言われ洗面所で見てみると、
私の首には両手で首を絞めた跡がハッキリと残り、
青紫色に変色していた。
まるでアザのような感じだった。
何も答えられなかった私に、後ろから
「おはよう」
と『A山』が声を掛けた。
『Y山』と『Y橋』には説明したが、
「半信半疑で信じようがない」と言われた。
『A山』とは少し距離を置くような形になり、
私は次の年に下宿を離れアパートを借りる事にした。
最後に、『A山』にもさりげなく話を聞いたのだが、
彼は21時頃には寝ていたそうだ。
まして私の部屋にも来ていないという。
確かに誰かが来ると必ずわかるくらい古く、音がする階段ではあった。
私が部屋に怒鳴りこみに行った事も知らないという。
でも話を聞いた直後、彼は擦れ違い様に眼鏡の奥から横目で
私を見てニヤッとしたのだ!
普段あまり笑顔を見せない彼だからこそ見逃さなかった。
これって生き霊なんですか?
霊は信じるけど、生き霊は・・・