これは数年前に知人から聞いた話です。
Fさんが泉ヶ岳に登山に行きました。
「あれっ?」
夜の山道を歩きながら、タバコを吸おうとして
胸のポケットを探ったFさんの指に触る物がありました。
お守りのお札でした。
「全く迷信深いんだから・・・」
幽霊の出ると噂のある泉ヶ岳に登ると聞いて、
心配した母親がこっそりとポケットに入れていたのです。
泉ヶ岳の夜道にはFさんのグループと、
前方の女性登山者が一人行くだけで、
静まりかえった闇が広がっていました。
「もしかしたら・・・」
噂に聞いた女の幽霊をふと思い出したFさんは、
なんとなしに前を歩いている女性が気になったが
「まさか・・・」
と思いながらも夜道を歩いて行きました。
「おや?」
どうしたことか、歩いているうちに泉ヶ岳の
最も危険な場所に足を踏み入れていました。
遭難者や行方不明者が多いことで、
登山仲間に知れ渡った危険な道でした。
「おい、こっちの道は・・・おかしいな、どこで間違ったんだろう?」
Fさん達は口々に言いながら、前を行く女に声をかけました。
「そっちは危険ですよ!」
女が振り返ったが、美しい笑みを浮かべた顔でした。
しかし、女はぐんぐん進んで行くのです。
「引き返そう!」と皆が思いました。
しかし、皆の足は、目に見えない糸にでも引かれる様に、
危険な道をズンズン進んでしまう・・・
まるで、あの女の後を追って行くように・・・
「だめだ、危ない!行ってはいけない、死んでしまう・・・
幽霊だ、あの女は幽霊だ!」
女は笑みを浮かべて、もう一度振り返りました。
あんな危険な所から生還出来たのは、 母親のお守りのおかげだったと、 Fさんは心から信じてやみませんでした。